昔話に学ぶ 分福茶釜 その6 任せきる
この記事は東光寺(静岡市清水区横砂)のみんなの坐禅会(子供坐禅会)と臨済宗青年僧の会で開催しているオンライン坐禅会(子供坐禅会)を同時開催で私が話した内容をまとめたものです。
※東光寺(静岡市清水区横砂)のみんなの坐禅会(子供坐禅会)についてはこちらをご覧ください。
※臨済宗青年僧の会 オンライン坐禅会についてはこちらをご覧ください。
昔話に学ぶ 分福茶釜 その6 任せきる

分福茶釜シリーズその6です。
皆さんは大きくなったらどんな仕事をしたいと思っていますか。
そして、目標を持った時に、周囲の人に「そんな仕事はしないで、こんな仕事をしてみないか」と言われたらどうしますか。
私なら「せっかく目標を決めて頑張ろうとしているのに余計なことは言うんじゃない!!」と文句を言ってしまうと思います。
私達はどうしても、自分で決めたこと、自分が経験したことを大切にしてしまいます。
しかし、「それだけが正しい」と思い込んでしまうと、「正しいこと」が迷いや苦しみの原因となってしまうこともあります。
私も今は僧侶をしていますが、幼いころから大人になるまで、そして大人になってからも僧侶になりたいとは思っていませんでした。
自分で将来の夢を決め、自分で経験をしたことを大切にしていたら、今でも僧侶はしていないと思います。
しかし、様々なきっかけがあって今は僧侶をしています。
嫌々やっているのかと言えば、そうではありません。
仏教では「きっかけ」を因縁【いんねん】と言って大切にしています。自分勝手な思い込みに執着することなく、因縁を大切にします。
今回、紹介する分福茶釜の場面は、このことを教えてくれています。
今回紹介するのは、有名なあの場面です。
前回まで、茶釜に化けたタヌキがくず屋の男に助けられるところまで紹介をしました。
食事と寝る場所を用意してもらった分福茶釜は、朝起きると男に
「うちは貧乏だからやっぱりお前を置いておくことができない」
と言われます。しかし、分福茶釜は
「自分が芸をしてお金を稼ぐから、見世物小屋を作って欲しい。」
と頼みます。
男は言われた通り見世物小屋を作り、分福茶釜に言われた通り、周囲の人を見世物小屋に呼び込みます。
分福茶釜は茶釜とタヌキが合わさった姿で様々な芸をすると、見世物小屋は大人気。 遠くからも人が来るようになって大儲け。
男はやっと人並みの生活ができるようになりました。
この場面は、絵本の表紙にもなるほど有名で大切な場面です。
なぜ、この場面が大切なのか。
それは、分福茶釜も男も「任せきる」からです。自分の思いに執着するのではなく、因縁とも呼ばれる周囲の力に身を任せているのです。
タヌキは茶釜に化けて元に戻れなくなっています。本当ならタヌキに戻りたいはずです。しかし、元に戻ることができない分福茶釜という姿を受け入れて、その姿をみんなに見せているのです。まさに「任せきる」姿です。
そして、男もくず屋(リサイクルショップ)の仕事をしているにも関わらず、タヌキに「見世物小屋を作って」と言われたら、迷うことなく作っています。
これも。これまで経験したことなどを捨てて、周囲のできごとに身体も運命も「任せきる」姿です。
2人が自分の経験を思い切って捨てさり、周囲の力に「任せきる」。そして、その中で一生懸命努力をするからこそ、彼らはまっとうな生活をすることができるようになりました。
これまで、今回の分福茶釜シリーズを聞いてきた方なら、この後どんな話しをするか予想ができると思います。
そうです、どうしたら「任せきる」ことができるのでしょうか。
任せきるために大切なことは、心を軽くすることです。
軽くするから、流れに身を任せきることができます。
体を軽くするためには余分な脂肪を減らさなければなりません。
余分な脂肪を減らすためには、運動をしたり食事に気を使ったりする必要があります。
全ての脂肪が不要なものではありません。とても大切な役割を果たしています。
しかし、必要以上にため込んでしまえば自分自身の体調を崩す原因となります。
同じように、私達が得てきた知識や経験はとても大切な物ですが、ため込んだりすれば自分の心を傷つける原因となります。
だからこそ、心を軽くするためには、大切だと思い込んでいるものを手放さなければいけません。
手放すための方法はたくさんあります。
その中の1つが、先ほどまで行い、この後も行う坐禅です。
身体を調え、呼吸を調えることで、心が調っていきます。
姿勢を良くして、ゆっくりと息を吐き出すと、吐き出す空気とともに心の中の思い込みを少しずつ吐き出していくことができます。
さぁ一緒にあせることなく、余分なものを吐き出して心を軽くして、流れに身を任せてみてください。
そうすることによって、今まで見えていなかったり、感じていなかった大切なことに気がつくことができるかもしれません。

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