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観音様に出会う その1

600手をつなぐ こまめと観音様



今でも忘れられない光景があります。


その光景を「3月」という言葉を聞くと思い出します。


それは、12年前の3月12日でした。


2011年3月11日 東日本大震災が発生しました。


私は、その翌日、12日の夕方に東名高速道路を走行しました。


静岡へ向かうため名古屋インターから高速道路に入ると、目の前に一台の消防車が走っていました。


なにげなくバックミラーを見ると後ろにも消防車。


「消防車に挟まれるなんて珍しいな」


そんなことを考えながらしばらく走っていました。


しばらくはそのまま走行していましたが、前方の景色が変わらないため少し眠くなってきました。




このままでは睡魔に襲われると思い、追い越し車線に出て消防車の前に出ようと考えました。


そして、追い越し車線に出てびっくりしました。


消防車は前後各1台ではなかったのです。


何十台という消防車が列をなして走行していたのです。


後ろを見てさらに驚きました。


後ろにも多くの消防車が。


追い越し車線に出てしまったので、消防車を追い越すしかありません。


追い越す際に、さらにさらに驚きました。



消防車に書かれた都市名がバラバラなのです。


愛知県、岐阜県、三重県など東海地方だけではありません。


関西や西日本の地名もありました。


私は偶然にも日本全国から被災地への向かう消防団の列に私は入り込んでいたのです。


はるか先まで続く赤い車列は被災地と日本各地を結ぶ糸のように感じたことを今でも覚えています。






今の私が、あの時の、あの赤い糸に名前をつけるとすると「観音様」です。


「観音様!?観音様って、あの美しい仏様?いくら消防車とはいえ、車は観音様とは違うでしょ。」


と思うかもしれません。


確かに、以前の私もそう感じたと思います。





では、観音様とは何でしょうか。


東光寺も「観音山」という観音様をお祀りしている山があり、様々な観音様をお参りすることができます。


皆さんも立像、座像、掛け軸、イラスト、様々な観音様をご覧になったり、お参りをしたことがあるのではないでしょうか。


では、観音様とはどのような人物なのでしょうか。


幼い頃に、祖父(僧侶)が、小学生に



「みんなの優しい心を集めると 観音様になるんだよ」



と話していたことを覚えています。



みんなの優しい心、尊い心、慈しみの心を形にしたのが観音様だと言いたかったのだと思います。


先ほどから、観音様と親しみを込めて言っておりますが、正式には



観世音(かんぜおん)

観世音菩薩(かんぜおんぼさつ)




と言います。


そして、観音様について説かれたお経は多くあり、般若心経や延命十句観音経もその一つですが、今回は観音経(かんのうぎょう)というお経を紹介させていただきます。


正式には


妙法蓮華経 観世音菩薩普門品偈(みょうほうれんげきょう かんぜおんぼさつふもんぼんげ)


というお経です。


臨済宗では、非常に大切にされているお経ですので、普段のお参りだけでなく、葬儀や法事の際にもお唱えしていますので、聞いたことがある方や、お唱えしたことがある方もいらっしゃるかもしれません。


私達、臨済宗の僧侶が日常的に唱えるのは


妙法蓮華経 観世音菩薩普門品偈の25番目の部分です。


このお経は、お釈迦様に弟子が質問する形で始まります。


かなりの私訳ですので、しっかりとした内容を知りたい方は、本やインターネットを使って調べてください。




お経の冒頭部分は弟子がお釈迦様に質問をする場面が描かれています。



「お釈迦様、あの方はなぜ観世音とよばれるのですか?」

それに対してお釈迦様は答えます。

「助けを求めるどんな人の声でも観じて、救うからである。」

「どんな人」と書きましたが、お経の中には

・大火(だいか)に入っている人

・大水(だいすい)に漂わされている人

と書いてあります。煩悩と言う炎に焼き尽くされそうな人や深い悩み苦しみにもがいている人とも受け取れます。

こういった人が、助けを求めれば観音様は必ず救ってくれると説いているのです。

さらに、驚くことに観音様は、もっと欲深い人も救います。

金銀財宝を手に入れようと船で海に出たはいいが、防風に巻き込まれて羅刹鬼(らせつき)に漂流してしまった人も救うと書いてあるのです。

これは、自分の私利私欲のために周囲のことなど考えず傍若無人のふるまいをしてきた結果、地獄のような苦しみを味わっている人とも受け取れます。そんな人も救ってくれるのが観音様なのです。


しかも、こんな人がたくさんいても、その中の1人が「助けて」と心から願えば、全ての人を観音様は救うと説いているのです。


どんな世界にいる人の声でもしっかりと聞き取って救ってくれるのが観音様なのです。


観音様の「観」はありのままにみる  心中で深くみきわめて、本質を悟ること


という意味があります。




助けを求める人に、これまでにどんな功徳があったかを見るのではありません。


どんな世界にいる人の声(声なき音)でも、ありのままに感じて、救っていくから観世音なのだとお釈迦様は弟子に説いているのです。


冒頭に

みんなの優しい心を集めると 観音様になるんだよ

という言葉を紹介しました。

この言葉も嘘ではありません。お経の言葉も嘘ではありません。

つまり、声なき声をしっかりと観じて誰かを救う心を私達は持っているのです。

その心に名前をつけるとしたら「観世音・観音様」なのです。

心に形はありません。

しかし、心に名前をつけることができます。

同様に、心の表れにも名前をつけることができます。


東北で大きな地震があったということを知ったとき、多くの人が被災地の方の無事を祈りました。


多くの方が、今自分にできることをしました。


それらの心や行動には様々な名前をつけることができます。


だからこそ、私はあのときの一本の赤い糸を観音様と呼んでいます。
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人物紹介

新米和尚

Author:新米和尚
横山友宏
東光寺 副住職
【静岡市清水区横砂】

中学校で理科を教えていた男がある日突然和尚になった。(臨済宗妙心寺派)そんな新米和尚による、仏教やお寺についての紹介をします。 気軽に仏教やお寺に触れていただければと思います。


元:中学校教師
  (理科・卓球担当)

現:臨済宗妙心寺派の和尚
2人の娘の父親であり、育児にも積極的に参加し!?失敗を繰り返す日々を送る、40代を満喫しようとしている どこにでもいる平凡な男

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