子供坐禅会 般若心経シリーズ その44 能除一切苦
この記事は東光寺(静岡市清水区横砂)のみんなの坐禅会(子供坐禅会)と臨済宗青年僧の会で開催しているオンライン坐禅会(子供坐禅会)を同時開催で私が話した内容をまとめたものです。
※東光寺(静岡市清水区横砂)のみんなの坐禅会(子供坐禅会)についてはこちらをご覧ください。
※臨済宗青年僧の会 オンライン坐禅会についてはこちらをご覧ください。

いつも坐禅会の最後にお経を読んでいます。
何度も読んでいると人は覚えているかもしれません。
覚えることができたら、お経の本は見ない方がいいのか、見た方がいいのかという問題が出てきます。
どっちが正しいのか聞かれることもあります。
また、私たち僧侶がお経の本を見ながら読んでいると
「え、お経を覚えてないんですか?だらしないですね。」
と言われることもあります。
お経の本を見ながら読むのと、見ないで読むのはどっちが正しいんでしょうか?
実はお経の本を見て読む方が正しいのです。
私も一応お経は覚えています。
お通夜やお葬式でも様々なお経をお唱えしますが、お経の本を見なくても読めるようになっています。
しかし、お経の本を出せる環境であれば必ず出して読むようにしています。
お墓の前や火葬場ではお経の本が出せないので出さずに読んでいます。
では、なぜ経本を出すのでしょうか?
それはお経に集中できるからなんです。お経に集中して、お経と向き合っているのです。
私はお盆やお彼岸などの季節に各家を周ってお経を読みます。
幼い頃はお経の本を見るのが恥ずかしくて、お経の本を持たずに手を合わせて読んでいました。
悪いことではないのですが、これには欠点があります。
ある程度お経を暗記していると、心に余裕が出てくるのです。
余裕というものは「油断」を生み出します。
例えば、そこの家のお仏壇に飾ってあるものが目に入ってくるようになったのです。
余裕がないときは一生懸命読んでいるのですが、お経が読めるようになって余裕が出てくると
あ、このうちのお仏壇にはこういうものが飾ってあるんだ。
あ、なんか刺身が飾ってあるぞ。珍しいな!
などいろんなものが目に入るようになってきてしまいます。
そうなると、「あれ今どこ読んでるんだろう?」と不安になります。
ずっと口は動いてお経をお唱えしている。でも、今何してるんだろう。とも感じることがあります・・・
お経をお唱えしているときに、
今〇〇〇〇って唱えているけど、次はなんだろう△△△△△だったかな、
などと考えても、その瞬間に頭が混乱して失敗してしまいます。
慣れてくるからこそ、暗記してるからこそ、心のゆとりという油断が出てきて、どうしても他のことを考えてしまい、失敗をするものです。
時々、お経を読んでいるのに他のことを考えてしまっている自分がいて、それに気がついて
「集中しろ、集中しろ!」と自分に言い聞かせる。
でも言い聞かせたところで集中できるはずもないし、言い聞かせていること自体が、集中できていない証拠なので、どんどんおかしくなってしまうものです。
どうしたら良いのでしょうか。 簡単です、お経の本だけを目の前に置いて、しっかりとその世界に没頭していくのです。
そのことを般若心経というお経では
能除一切苦 【のうじょう いっさい く】
と示しています。

一切の苦を取り除きます
という意味です。
般若心経というお経は私たちの苦しみを全て取り除いてくる素晴らしいお経なのです。
と教えてくれている言葉です。
しかし、ここは大前提があります。
能除一切苦の前に書かれている般若心経の意味を理解し実践することです。
そして般若心経をしっかりとお唱えすることで全ての苦しみを取り除くことができる。
と教えてくれているのです。
では、しっかりと般若心経をお唱えするとは何でしょう。
もうわかっていると思います。
暗記したとしてもお経の文字を見ながら一生懸命お唱えするのです。
これは普段の生活でも同じです。どうやって苦しみと向き合っていくか、取り除かれるはずの苦しみと、どうやって向き合っていかなくてはけないのかも教えてくれています。
私たちはこれからも必ず辛いこと、嫌なこと、避けては通れない苦しみと出会います。
では、それとどうやって付き合っていくのか?
見えているのに見ないようにしたり、少し距離をとることも一つの方法です。
しかし、それでは根本的な解決にはならない。
お経の一文字一文字と真剣に向き合うように苦しみと向き合うことも大切だと般若心経は説いているのです。
今、自分が苦しんだっていうことをはっきりと認識する。
このこともすごく大切で、距離を取って逃げることも有効ですが、それはずっと引っかかってくる。
そして、その苦しみは自分を追いかけてくる。
苦しいけれど、その苦しみと徹底的に向き合ってみると、「ああ、この苦しみの原因はここにあったんだ」ということに気がつくことができる。気がつくことができればどう対処していいかがわかる。
それこそが、般若心経が教えてくれている「能除一切苦」なのだと私は考えています。
どうやったら、苦しみと向き合えるのか・・・
この坐禅会に参加してくれている人ならもう分かっていると思います。
体と呼吸を調えて心を調えていくこと。
坐禅です。
調った心で自分の内側を見つめていけば、私たちはしっかりと自分の苦しみ、というものをはっきりと自覚し、そして取り除くことができるのです。
さぁ、一緒に身体を調え、呼吸を調え、心を調えましょう。
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