般若心経に学ぶ その4 【行深般若波羅蜜多時】

東光寺(静岡市清水区横砂)で開催されている子供坐禅会で話をしたときの原稿です。
~おかげさま・ありがとう~
ご飯を一から全部作ったことがある人はどのくらいいるのでしょうか。
ほとんどいないと思います。
例えば、「ご飯、豆腐のみそ汁、たくあん」という質素な朝食を作ろうとしたときに、何から始めますか?
ご飯を炊いて、たくあんを切って、ダシ汁に豆腐を入れて味噌をとく。
これで、朝食を作ったことになります。
それくらいなら、やってるよ!
と言う人もいるでしょう。
しかし私が言いたい、「ご飯を一から作る」というのは、意味が少し違います。
「ご飯を炊く」ではないのです。
ご飯を炊くためにお米と水が必要です。
お米を作ったり、水を汲んだりしなければなりません。
例え、お米ができたとしても、炊飯器でご飯を炊こうとするならば、複雑な回路を組み立てたてたり、何気なく見ている液晶画面を作ったり、さらに、釜を作るためには金属を精製する技術が必要になってきます。
豆腐のみそ汁を作るためには味噌・豆腐・ダシが必要です。味噌と豆腐の原料は大豆ですから当然大豆を育てなければなりません。
味噌を作るためには大豆を蒸すためのせいろ、潰す道具、貯蔵する樽などなど・・・
豆腐を作るための道具も大変ですし、海の水から「にがり」を取り出さないと、豆腐は固まりません。
ダシを何から取るかによっても、製造方法は異なります。
昆布を採ったり、シイタケを栽培したり、カツオを捕まえて加工して削ることも大変です。
私は比較的調理も好きですし、畑仕事も好きです。ものを作ることも好きです。
毎朝のように食事を作りますし、炎天下で吐き気に襲われながら畑を耕しで、芋やタマネギ、枝豆・大豆、大根、米など様々な作物を作りました。
竹を割っただけの容器で米を炊いたこともあります。
簡単な道具で、蒸しパンを作る機械を作成して蒸しパンを作ったこともあります。
しかし、「食事を一から作る」という経験はありません。
それでも40年以上生きてきて4万食以上の食事をしてきました。
なぜ、一回も「一から食事を作る」という経験がないのに、生き残っているのでしょうか。
それは多くの「おかげさま」のおかげです。
大いなる自然の力、農作物を育ててくれる方、できたものを運んでくれる方、並べて売ってくれる方など多くの力があるからこそ材料がそろいます。
同様に、調理に必要な道具、さらに電気やガスなどを揃えるために多くの方が携わってくれています。
食事を例にしても、非常に多くの方が関わってくれていること実感をすることができます。
何気なくいただいている食事に、多くの「目には見えない おかげさま」があふれています。
しかし、そのことに気がつかず、感謝の気持ちを忘れてしまいがちです。
そのことを思い出させてくれる言葉が般若心経の冒頭部分にあるのです。
それが、
行深般若波羅蜜多時【ぎょうじんはんにゃはらみったじ】
です。
般若心経は
観自在菩薩と始まり、行深般若波羅蜜多時と続きます。
観自在菩薩は観音様という意味で、行深般若波羅蜜多時は修行をしているという意味です。
つまり、観音様が修行をしているという意味になるのです。
観音様の修行とは、人々の苦しみを救うという修行です。
「観音様が私達を救うという修行をしているから、私達は幸せに生きていける」
というと
「いやいや、それはないでしょう。科学的じゃない」
と言う人もいるかもしれません。
確かにそうかもしれません。しかし、般若心経から私達が学ばなくてはいけないことは、そういうことではありません。
「観音様が私達を救うという修行をしている」
観音様は誰ですか? 私達です。 と、言うことは
「私達には人を救う修行が必要だ」
と言ってくれているのです。
さらに、
「観音様が私達を救うという修行をしている」
という言葉は
「私達は目には見えないところで、観音様が救おうとしてくれているように、目には見えないところで、誰かが私達を助けてくれいるのだから、そのおかげで生きていることに気がつきなさい」
と教えてくれいます。
何度も何度も般若心経をお唱えすることで、そのことに気がつくことができます。しかし、そのことに気がつく方法はそれだけではありません。
私は、実際に畑で大量の野菜を作ることで、作物を作ることがどれだけ大変かを実感することができました。
同じように、自分が救われていると実感する一番の方法は誰かを救おうとすることです。
どんなにがんばっても相手に伝わらず、感謝されることもありません。
それでも、誰かのために、必死で救おうとすることで、自分も同じように助けられていたことに気がつけるのです。
そのことを、般若心経の観自在菩薩 行深般若波羅蜜多時 という言葉は教えてくれています。
観音様は人々を救うことで悟りを得る。
私達も人や自分の苦しみを救うことで悟りを得るのです。
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