遺教経に学ぶ 【1-3】

遺教経(ゆいきょうぎょう)に学ぶ 【1-3】
私は中学から大学まで卓球部に所属して卓球の練習をしてきました。
本などを読んで勉強もしました。
しかし、本を読んだだけでは上達はしません。
頭でわかっても体が動きません。
何度も何度も繰り返し練習することで本に書いてあることができるようになりました。
これは卓球の世界だけの話ではありません・・・
お釈迦様が亡くなる際に遺された最後の教えである遺教経は
釈迦牟尼仏、初に法輪を転じて、阿若憍陳如(あにゃきょぢんにょ)を度し、最後の説法に須跋陀羅(しゅばつだら)を度したもう。
という言葉から始まります。
「度す」とは「渡らせる」や「悟らせる」という意味がある言葉です。
つまり、
お釈迦様は、教えを説くことで阿若憍陳如(あにゃきょぢんにょ)から須跋陀羅(しゅばつだら)までをも悟らせた。
と読むことができます。
【1-1】と【1-2】でこの中にでてくるお二人の御弟子様から今を生きる私達が学ぶことができるかを書きました。
【1-1】「阿若憍陳如(あにゃきょぢんにょ)を度し」についてはこちらをご覧ください。
【1-2】「須跋陀羅(しゅばつだら)を度したもう」についてはこちらをご覧ください。
では、御弟子様のことは最初と最後だけ学べば良いのでしょうか。
もちろん、そのようなことはありません。
御弟子様に関する逸話は非常に多くありますので、その中の一つを御紹介させていただきます。
ウバーリとナンダというお二人の話です。
ナンダは釈迦族の王子様です。釈迦族とはお釈迦様がいらっしゃった国を治める人々です。お釈迦様もこの釈迦族の王子様でしたが、その地位を捨てて出家をされました。
ナンダはお釈迦様が出家をされたことで、次の王様になるはずでしたが、お釈迦様の教えに触れて出家をしたいと考えたのです。
そこで、剃髪(髪の毛を剃る)ために床屋へ行きました。
そこにいたのがウバーリです。
ウバーリは床屋で働いていたのですが、お釈迦様の弟子になりたいから剃髪に来る人が多く、話を聞いているうちに自分も弟子になりたいと思っていました。
そこで、ナンダに自分も出家をしたいと言うと「一緒に行こう」と言われたのです。
この「一緒に行こう」はすごい言葉です。
実はウバーリは奴隷だったのです。
王子様と奴隷。普段でしたら声をかけてもらえることなどないほどの階級の違いです。
しかし、ナンダは出家をしてお釈迦様の教えを学びたいと思っています。お釈迦様が「人に身分の違いなどない」と言っていることも知っています。
だからこそ、奴隷のウバーリが出家をしたいと思っていることを知ったときに「弟子入りをする前から、お釈迦様の教えを実践しよう」と思ったのかもしれません。
そして、ウバーリとナンダはお釈迦様のもとへ行き、弟子入りをお願いします。
そこでは、弟子入りをするための儀式があります。
お釈迦様と兄弟子(先輩の弟子)に礼拝をするのです。
ウバーリとナンダのどちらが先に弟子になるのか聞かれたナンダは
「この先、身分を捨てるのだから」と考えて奴隷であるウバーリに先に弟子入りするようにすすめます。
ウバーリは言われた通りに先に弟子入りをしました。
次はナンダの番です。お釈迦様に礼拝し、次に兄弟子に礼拝をします。
兄弟子はウバーリです。
ナンダはウバーリの前に立ち、礼拝をしようとするのですが、身体が動きません。自分で先に弟子になるように言ったにもかかわらず、兄弟子になったウバーリに礼拝ができないのです。
その時、お釈迦様がナンダに
「四河、海に入って、元の名無し。衆生仏界に帰すれば、同じく釈氏を称す。」
と言ったのです。
四河とはインドにある4つの大きな河のこと。河にそれぞれ名前はあるが、海になれば「この水はあの河の水で、こっちの水はあの河の水」などとは言わない。
同じように出家をして弟子となれば、もとの世界での身分など関係ない、みな同じ人間だ。
と言われたのです。
この言葉を聞いてナンダはウバーリに礼拝することができ、お釈迦様の弟子となったのです。
頭では分かっていても、なかなか体が動かない。
しかし、何かのきっかけで体が動けば、繰り返し実践することができるものです。
ナンダもお釈迦様の言葉をきっかけにして、礼拝をすることで自分の身分と一緒に、これまでの思い込みなどの煩悩も捨てたのです。
これは、今を生きる私達にも多くのことを伝えてくれる逸話です。
頭では分かっていても、体が反応しない。
ゴミが落ちていれば拾った方が良い。でも、つい通り過ぎてしまう。
勉強をいました方が良い。でもついテレビを見てしまう。
ではどうしたら良いのでしょうか。
一所懸命考えればよいのでしょうか!?
ゴミを拾うと念じれば良いのか!?
違います。やはり、最初の一歩を踏み出さなくてはならないのです。
ナンダの礼拝は、頭だけで理解するのではなく実体験することの大切さを教えてくれています。
- 関連記事
-
- 遺教経に学ぶ 【2-1】 (2022/02/10)
- 遺教経に学ぶ 【1-4】 (2022/01/27)
- 遺教経に学ぶ 【1-3】 (2022/01/21)
- 遺教経に学ぶ 【1-1】 (2022/01/19)
- 遺教経に学ぶ 【0】 (2022/01/18)