昔話シリーズ その7 天狗の隠れ蓑
昔話シリーズ【7】 天狗の隠れ蓑 (てんぐの かくれみの)

個人的には有名な話だと思っていましたが、子供坐禅会で
「この話しは有名なので知っていますよね!?」
と言ったところ、参加者の目が点になっていて驚きました。
20人以上の参加者がいましたが、誰もこの話を知らなかったのです!!
ですから、今回もしっかりとお話を紹介させていただきます。
話しは以下の通りです。
ある所に、彦一(ひこいち)と言う、子供がいました。
彦一は天狗が持っている蓑をかぶると、かぶった人の姿が見えなくという話しを聞いて、天狗の隠れ蓑が欲しいと思っています。
※蓑と言うのは昔の雨合羽のような物です。
そこで彦一は竹の棒を持って天狗がいる山へ行きました。
そして、
「やあ、こいつはええながめだ。大阪や京都が、手に取るように見える!」
と言いながら竹を望遠鏡のようにのぞいていると、天狗がうらやましくなって彦一の前に出てきて
「その竹と隠れ蓑を少しの間だけ交換しよう」
と言ったのです。
「うーん、それじゃ、ちょっとだけだぞ」
と言って隠れ蓑を受け取るとすばやく隠れみのを身につけ姿を消しました。
隠れみのに身を包んだ彦一は、さっそく町へ出て自分の姿が見えていないか試しました。
どうやら誰にも見えていないようなので安心して家に帰り、蓑をしまって寝ました。
しかし、次の朝になると隠れ蓑は無くなっていました。
お母さんがあまりに汚い蓑だったのでかまどで燃やしてしまったのです。
彦一はがっかりしながら灰をかき集めてみると、灰のついた手の指が見えなくなりました。
そこで裸になって灰を体中にぬってみると透明になりました。
彦一は喜んで町へ出かけました。
透明になった彦一は色々ないたずらをして楽しんでいました。そんなとき、喉が渇いたので水を飲むと唇のまわりの灰が取れて唇だけが見えてしまったのです。
町の人は「唇のお化けだ」と驚きながらも、追いかけてきます。
彦一は思わず逃げ出しますが、走れば走るほど汗が出てきて灰を流してしまいます。
とうとう灰が全部流れて彦一の姿が丸見えになってしまいました。
町の人達に捕まって怒られた彦一は反省をして町の人達にイタズラしたことを謝りました。
というお話しです。
嘘をついて手に入れても良いことは何もないということを教えてくれています。
しかし、それだけではありません。
私はこの話を読んだときに
隠れ蓑を失い、裸になる彦一の姿は、余分な地位や肩書などに縛られずに生きていくことの大切さを教えてくれているように感じました。
私達は普段の生活の中でついつい自分を守るために嘘をつきます。
また、自分を守るために地位や肩書を手に入れ活用します。
これは服を着るようなものだと思います。
私達は自分の弱い部分を隠すために様々な服を着ます。
たくさん服を着れば、なんだか安心をしてしまいます。
しかし、仏教ではこれを脱ぎ捨てることが大切だと説いています。
坐禅も何かを得るためにしているのではなく、何かを捨てることが大切だと説いています。
彦一は服を脱ぎ捨て灰を体に塗りました。
もしも服に灰を塗っていた、灰が取れてもただの服を着た少年に戻るだけで町の中に逃げ込めたかもしれません。そうすると彼は「ごめんなさい」という一言が言えなかったかもしれません。
しかし、いったん裸になることで、灰が取れても目立つ存在であり町の人に捕まることできたのです。だからこそ、しっかりと謝ってもう一度まっとうな人生を歩み直すことができたのです。
私達も、彦一のように心の着せた洋服を脱ぎ捨て生まれたときから頂いている尊い心のままに生きていれば失敗をしたり悪いことをしてしまったときに「ごめんなさい」と大切な言葉を素直に出すことができます。
心の洋服を脱ぎ捨てる方法には様々な方法がありますが、そのひとつが坐禅だと言うことを覚えて置いていただければ嬉しいです。
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