写経会のときに どんな話しをしているの? その71 【後半】
写経会のときに どんな話しをしているの? その71の後半です。
※前半の記事はこちらです。

且座喫茶【しゃざきっさ】
厳しく緊張感のある問答が続き、最後に「且坐喫茶 まあ、しばらくお茶でも飲んでいきなされ」と、くる・・・・
厳しい修行・厳しい問答にだけ頼ることなく、毎日やっている平凡なことにも大切なことがあることを伝えてくれているのです。
私はこの問答に出会ったとき、この問答が何を伝えてくれているのか理解することが正直できませんでした。しかし、ある科学者の言葉に触れたとき この問答が伝えようとしてくれていることを感じた気がしました。
それは、1940年代に原子炉の中で、ウランの連鎖反応を制御しておこなわせるという実験を初めて成功したエンリコ・フェルミという科学者の言葉です。
科学者の名言が納められた本の中でも、特にフェルミの言葉は異彩を放っています。フェルミの名言として有名な言葉は
「腹がへった。昼食を食べに行こう」
なのです。
ウランの連鎖反応とはいわゆる核反応です。凄まじい力を生み出す反応であり、今でもこの力を制御し続けることは大変です。それを人間が初めて自分達の意志で行ったのがフェルミです。
その実験が行われたとき、万一、制御が失敗し、核反応が暴走した場合にそなえて、原子炉のてっぺんには、消火用の溶液を満たしたバケツをもった三人の決死隊員が立っていたほどです。この時の様子が文章となって残されているので紹介します。
制御棒をずつ引き上げる命令と、計測器のカチカチという音。レコーダーのペンがかすかな音をたてて炉内の反応レベルを示す。息づまる緊張。いよいよ連鎖反応のはじまる時間が近くなった。突然、静けさを破るフェルミの声。
「腹がへった。昼食を食べに行こう」
昼食時間になっていたのだ。ほかのだれも空腹を感ずる余裕はなかった。午後2時実験再開。3時25分、フェルミの計算通り、史上初の連鎖反応がはじまり、28分間続いた。
とあるのです。
数百年前の科学の世界では1人の天才的な能力を持った科学者が単独で実験を行うことが一般的でしたが、この頃になると大きな実験は優秀な科学者が集まって意見と技術を出し合って実験を成功に導いていきます。
フェルミの実験も、1人で行ったものではなく多くの優秀な科学者と共に実験を行っています。フェルミ以外の優秀な科学者達はお腹が空いたことを忘れて実験に集中していたが、フェルミだけはお腹が空いた自分に気がつける状態だったからこそ「腹がへった。昼食を食べに行こう」という言葉が出たのでしょう。
昼食の時間を忘れて命がけで実験に取り組んでいた科学者たちだけでも実験は成功したかもしれません。しかし、目の前のことに集中しすぎて自分自身や周囲のことが見えていないことをフェルミが「お腹が空いた」という言葉で伝えたからこそ、全員が自分自身のお腹のことまではっきりと感じることができる心のゆとりを持ち実験を成功に導いたのだと私は思っています。
私達は何かを成し遂げよう、達成しようとすると、目標に向かって努力をします。しかし、時には集中しすぎるがゆえに、取捨選択をしてしまし、迷いの世界に入り込んでしまし身動きが取れなくなってしまいます。
そのときは、「且座喫茶」という言葉を思い出し、厳しく緊張感のある世界だけでなく毎日やっている平凡なことに真実を見ていくことができることを感じるきっかけにしていただき、さらに臨済宗妙心寺派の生活信条
一日一度は静かに坐って、身と呼吸と心を調えましょう
を思い起こしていただければ幸いです。
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