写経会のときに どんな話しをしているの? その71 【前半】
且坐喫茶【しゃざきっさ】

東光寺(静岡市清水区横砂)は臨済宗のお寺です。
臨済宗の最初の和尚様である臨済義玄禅師は約1200年前に唐(現在の中国)の僧侶です。
臨済禅師は御弟子様達を大変厳しく指導され、その臨済禅師の教えを弟子が編集したものが臨済宗では最も大切な語録とも言われる臨済録です。
この臨済録の中に「且坐喫茶」という言葉が出てくる問答があります。その問答はどういうものかと言いますと、
臨済禅師がまだ若かった頃の話しです。臨済禅師は、平【ひょう】和尚にお目にかかりました。すると平和尚が、
「君はどこからやってきたのか」
と質問いたしました。当時は、偉い和尚のうわさを聞くと、その和尚に面会して、その和尚から仏法の真実を学びとろうという意欲をもって諸国を行脚している修行僧がおり、修行僧がくると、必ずといっていいほどこのように問い掛けます。
このころの臨済禅師はすでに師匠の黄檗和尚のもとで充分に修行を積んでいました。ですから、この質問の本当の意味を理解し
「黄檗山からやってきました」
と答えます。黄檗山にいる希運禅師のもとで、私は修行してまいりましたと答えたのです。すると平和尚が、
「君は黄檗希運禅師のもとで修行していたのか。黄檗和尚は日ごろ君たちにどういうことを教えているか」
と訊ねます。そこで臨済禅師が、
「金の牛が溶鉱炉に落ち込んで、そのまま溶けて、跡形もなくなってしまった。」
と答えたのです。金の牛は黄檗の仏法に喩えているのです。黄檗の仏法は、黄金でできた牛のように、まことに素晴らしいものです。ところが、その素晴らしい仏法が一夜で溶けてしまって、跡形すらも留めない。これは、黄檗の仏法はすべて私のものになってしまいましたと伝えたのです。すると、平和尚が、
「金風、玉管吹ふく、那箇是知音 【きんぷう ぎょくかんをふく なこか これ ちいん】」
金風は秋風を意味しており。秋風が玉でできた笛を吹いている。素晴らしい音色がする。しかし、その素晴らしい音色を誰が聞き分けてくれるであろうか。
と言うのです。つまり、臨済禅師が黄檗の素晴らしい教えを全てものにしたと答えたことに対して、その素晴らしい教えを聞き分けることができる人が果しているのだろうかと、さらに問いかけたのです。
これに対して臨済禅師は
金風はいくつも重なった関を突き破って青空まで届く。しかし、そのスカッとした青空のところにも私は腰を据えてはいませんよ。あなたは黄檗の仏法を素晴らしいといいましたけれども、私はそんなところにもとどまってはおりません。こういう心境に私はいますが、和尚はその私をどうごらんになりますか。
と答えます。そこで平和尚、
「お前、えらい勢いじゃのう。そう気張るばかりが能じゃないぞ、もう少しおとなしくならんか。」
こういうと、臨済禅師は
「いや、おとなしいというところにも腰を据えてはおりません」
と答えています。そこで最後に、平和尚が。
「且坐喫茶 まあ、しばらくお茶でも飲んでいきなされ」
と言ったという問答です。厳しく緊張感のある問答が続き、最後に「且坐喫茶 まあ、しばらくお茶でも飲んでいきなされ」と、くるのです。
禅の教えは、特別な難しい教えや言葉だけを大切にしてきたのではなく、日常生活の中の具体的な事柄に真実を見つけます。
道を歩くこと、おしゃべりをすること、ご飯を食べること、食器を洗うこと、お茶を飲むこと・・・・
何でもない、毎日やっている平凡なことに禅の真実を見、仏法を見ていくことを大切にしています。
且座喫茶は、厳しい修行・厳しい問答にだけ頼ることなく、毎日やっている平凡なことにも大切なことがあることを伝えてくれているのです。
長くなりますので、続きは後半へ・・・
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