捨てる と 生かしきる その1
断捨離【だんしゃり】という言葉が定着すると同時に、
捨てる = 素晴らしい
という価値観が定着しているように感じます。
しかし、私は「捨てる」だけでなく「生かしきる」ことも素晴らしいことだと感じています。

皆さんは鉄拳という方は御存じでしょうか。
数年前からパラパラ漫画を描く方として知られており、多くのメディアで紹介をされているのでご存知の方も多くいらっしゃるのではないでしょうか。
もともとお笑い芸人としても活躍をされていた方で、見た目はプロレスラーのような格好に、素顔が分からないほどメイクをして、スケッチブックに絵を書いて面白いことを言うという芸をされていました。
そんな鉄拳はあるときパラパラ漫画を描くようになります。そして、その作品に多くの方が感動したのです。代表作である振り子という作品は250万回以上再生されています。また、多くの作品を作っておりどの作品も100万回以上の再生回数を誇ります。
最近では法務省が罪を犯した人の健全な社会復帰をすすめる「社会を明るくする運動」でもイメージキャラクターに任命され作品を作りました。
先日、この鉄拳が法務省の「社会を明るくする運動」と関わりのある更生保護という冊子で特集されている記事がありました。
そこには、御自身の半生が書かれていました。
【更生保護2017年1月号 「いつも心に太陽を」 鉄拳】
僕は元々、漫画家を目指していました。絵が得意で、高校の頃に描いた漫画がちばてつや賞に入選しました。しかし、その後、面白いものが全然作れなかったので、漫画を描くことをやめてしまいました。
第二の夢は、プロレスラーでした。高校卒業後、プロレス団体のオーディションを受けて合格し、喜こんだのもつかの間、レフェリーとしての採用だったことを知り、「プロレスラーになれないのじゃあ意味がない」と諦めました。
そして、今度は俳優になろうと、劇団東俳に入団しました。演技の練習などを一生懸命したのですが、「滑舌が悪い」と言われ、「滑舌が悪かつたら役者にも向いてないな」と思い、また、挫折を味わいました。
ちょうどその頃、世間では「ボキャブラ天国」というお笑いバラエティ番組がはやっていて、今度は芸人になろうと思いました。
格好は、プロレス好きなので、プロレスラーっぽくすることにしました。そして、滑舌が悪いのは俳優をやっていた時に分かっていたので、「格好はいかついけれど、しゃべると滑舌が悪い芸人をやったら面白いのではないか」と考え、思いついたのが、今の鉄拳です。
漫画家、プロレスラー、俳優という3つの挫折が合体したからこそ、今の僕があるのです。
~中略~
僕が作るパラパラマンガのストーリーは、僕の実体験が基になっていることが多いのです。たとえば、『振り子』のストーリーも、理容店をやっていた父が、病気がちだった母の髪を切る光景からヒントを得ています。僕の失敗経験も制作に役立っています。
僕の人生は、挫折の連続です。3つの職業以外にも、いろいろな経験をしてきました。傷ついたり、嫌な思いをしたことなどが頭に自然に残っていて、制作中に、それらがふっと、「こういうこと、あったなー」と浮かんでくるのです。成功ばかりじゃなくて、失敗したことが良かった。そういう経験がなければ、社会を明るくする運動”の作品のように、少年が失敗を乗り越えていく物語は描けなかったと思います。だから、たくさん失敗をしてきて良かったと思います。
私は情けない人間です。
テストで悪い点を取れば、テストを捨てようとします。
失敗をすれば、無かったことにしようとしてしまいます・・・
しかし、鉄拳は違うのです。
漫画家、プロレスラー、俳優という3つの挫折を捨てることなく、生かしきったのです。
たくさん失敗を捨てるのではなく、生かしきるからこそ「たくさん失敗をしてきて良かったと思います。」と語れたのだと思います。
この記事を読んだとき、鉄拳の姿そのものが「生かしきった姿」なのだと感じ、生かしきることの大切さを教えていただいたと思っています。