先輩後輩の壁を無くすとどうなるのか

あるテレビ番組で興味深い内容を放送していました。
それは、中堅のお笑い芸人に「先輩に相談することができる」と悩みを聞き出し、その悩みを若手芸人に「後輩芸人の悩みにアドバイスをする企画」と説明し回答をさせるという内容です。
つまり、若手芸人が先輩である中堅のお笑い芸人の悩みに答えることになるのです。
番組では司会者が中堅の悩みと、それに対する若手のアドバイスを読み上げていきます。
アドバイスを聞いた先輩である中堅のお笑い芸人は一様に
「回答はすばらしい」
と内容自体は褒めるのですが
「でも、どうしても受け入れられない」
と言うのです。
先輩に言われれば納得できるが、後輩に言われると納得ができない。
私自身も「なんだか偉そうなことを言っているけど、この人は普段の生活がだらしないから、この人の言うことは聞く気にならない。」と相手によって言葉を選り好みしてしまいますので、この気持ちは本当によくわかります。
禅の言葉に 賓主互換 【ひんじゅごかん】 という言葉があります。
「賓」はお客様を表す言葉であり、「主」はお客様をもてなす主人を意味します。ある時は主人が客の立場になり、またある時は客が主人の立場になる。主客が互いに自由自在に入れ替わることを示す言葉です。
禅語の解説書には
修行によって高い力量を身につけた禅の修行者同士が問答をして、尋ねる者と答える者とが自由自在にその立場を変えること。
と書いてあります。
教師が生徒を教えているつもりでも、教師が生徒に教えられている。
他人を救っているつもりでも実は自分が救われている。
どちらが偉くて、どちらが偉くないと分けて考えるのではなく互いが互いを認め合うからこそ自由自在に立場が入れ替わることができる世界を示す言葉が賓主互換なのです。
“先輩に言われれば納得できるが、後輩に言われると納得ができない”や“この人は普段の生活がだらしないから、この人の言うことは聞く気にならない”という考えは、「俺の方が先輩なんだから偉いんだ」、「俺の方が普段から真面目にやっている。」という自分自身が勝手に作り出した壁によって本当は正しいアドバイスを聞く機会を自ら放棄してしまっています。
賓主互換という言葉は、自分で勝手に作った壁によって苦しむ自分が壁を壊すことで苦しみから脱却するように教えてくれているように感じます。