大切なものを見過ごさない

看却下(かんきゃっか) と言う言葉を見たことはありませんか?
東光寺(静岡市清水区横砂)の玄関にも「看却下」と書かれた板があり、多くの禅宗の寺院で見ることができる言葉です。「看却下」は禅語で
・自分の足下をよく見なさい。
・大切なも教えを求めるとき、遠くばかりを見ずに身近なところをしっかり見てみなさい。
と言う意味があり、玄関に「看却下」と書かれた木札があるのは「履物をそろえておきなさい。」という意味も込められています。
この木札を見ると思い出すことあります。それは、私が教員を退職し、妻や子供と共にお寺に入ることが決まった時の事です。この時、お寺の住居部分を少し修理してから暮らし始めることになりました。
私が育ったお寺の居住空間の最大の欠点は日当たりが非常に悪いことです。居住空間は、もともと平屋の建物に30年程前に建て増しした2階部分でした。もともとあった建物へ建て増しだったことが影響し、2階部分の南側には窓がほとんど無く日当たりが非常に悪くなっていました。
住職も私も長年生活をしてきたため、「せっかくなら南側の壁の一部に窓を付けよう!」と言うことで意見がまとまりました。そこで、工事をお願いする職人さんに
「壁を壊して、窓を付けてください。」
とお願いをしました。すると
「和尚さん、技術的には問題なくできるけど、う~ん・・・やめた方がいいよ。」
と言われてしまいました。本堂も含めた全ての建物を見たときにバランスが悪くなるからだそうです。その時は、技術的にはできることを頼んでいるのに工事をしてもらえないことに驚いてしまいました。
表に出て崩そうと依頼してる部分を眺めても景観が崩れるとは思えず、その後の打ち合わせのたびに住職と二人でお願いをしましたが、窓の部分だけは工事を断られ続けてしまいました。最終的には私の希望したような窓は付けることが出来ませんでしたが、東側に窓を付けてもらうことができました。
工事が無事に終わりお寺での生活が本格的に始まりました。それから1年くらいがたったある日、お寺周辺の変化により今まではお寺を見ることができなかった駐車場からお寺が見えるようになったので、さっそく写真を撮りに行きました。

↑↑↑その時の写真↑↑↑
写真を見て真っ先に感じたことは
「壁を壊して窓を付けなくて本当によかった。」
と言うことです。職人さんの言うとおりでした。生活しているときは邪魔な壁にしか感じていなかったものが、お寺全体の景観を保っていたのだと初めて気づかされ、自分の至らなさを反省し自分の意見を押し通さなくて良かったと胸をなでおろしました。
そして玄関へ戻ると「看却下」と言う文字が目に飛び込んできました。
「身近にある本当に大切なものを見失っているぞ!!」
と、言われている気がしました。
看却下
・自分の足下をよく見なさい。
・大切なも教えを求めるとき、遠くばかりを見ずに身近なところをしっかり見てみなさい。
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